序章 偶然か否か

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  再び茹だるような気温の中に飛び込む。 逆上せそうになりながら、そういえばいつからだっけと頭を捻らせた。 ふわりと綺麗に微笑む姉が普通で、無邪気に笑う姉は無理をしている。その判断の仕方は、母が赴任する以前からあったように思う。 姉だって、昔は子供だった(今も、世間的には子供かもしれないが)んだから、無邪気に笑う時期もあっただろう。 いつから、それが嘘を吐く時の表情になったんだろうか。 別にそんなことを考える必要もないのに、考えてしまうのはどうしようもなく後ろめたかったからだろうか。 ――家を出る時に、そんな表情をさせてしまったから。 どうしても暗くなる思考に、ブンブンと頭を振る。既に流れ始めていた額の汗が、パラパラと飛び散った。 (幾ら考えてもしょうがないことを、とりとめもなく考えるのは、…この熱気にやられてしまったからだ。そうに違いない) 思考回路を違う方向へ働かせようと頭を動かすが、何も良い事は思い浮かばない。 どうせ何も考えないのなら、やはり身体を動かした方が余計な事を考えなくて済む。 ただ、ほんの少し憂鬱だなと溜め息を吐いた。 「…、……はぁっ、……ふぅ」 目的地に到着し、早速扉を開ける。冷たい風がさらりと俺の頬を撫でるから、熱風の中を駆けてきた身としてはどうしようもなく嬉しくなる。 『冷風が漏れるので、開けたら直ぐに閉めて下さい』と書かれている通り、サッと内側に身体を滑り込ませた。 ちらりと自らの腰を見ると、家に帰ってからも付けっぱなしだったウエストポーチがある。これは見た目よりも物が収納出来るから、自分の現在地――図書館には、ぴったりなのだ。 読んでる時に邪魔にならないし、借りて帰る時には収納すればいい。元々両手を使わないから、何か(例えばアイスとか)を買って帰るのにも邪魔にならない。 なんて素晴らしい!!!(熱気で頭がやられてしまったようです) 「………、」 「ん…?………あ、…っと」 ふと感じた視線を見ると、図書館の受付の人が何かを訴えるような顔でこちらを見ていた。 まあ、扉の前で立ち尽くしている迷惑な客がいれば、退いてくださいと視線を送るのも当然。気まずさに無駄に背筋を伸ばし、足早に本棚の方へ向かった。  
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