序章 偶然か否か

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  薫る書物の匂いが、自分の気持ちを堪らなく向上させる。なんて素敵なのか!視界一杯に広がる本、本、本!! (……やっぱり、此処は良い) どんなに身の回りがバタバタとしていようが、此処に来るのは止めない。外界と自分を切り離してくれる、唯一の場所だというのもあるけれど、やはりどうしようもなく好きなんだろう。 どんなに難しそうな本にも、書き手の想いは込められている。むしろ顕著な場合の方が多々ある。そんな、書き手の想いだけに縛られないあやふやな世界に入り込むこと。 それが、本当に好きで。 「……行くか」 小さく頭を振り、呟く。本棚の前でぴたりと止めてしまっていた足をゆっくりと地面から離して、考えることを止めた。 今、自分は山のようにある宝箱の前にいるというのに、何故考え込む必要があろうか! 適当に目についた本を数冊取って、人気のないスペースを探す。殆ど人は入っていないようで、簡単に見付けることが出来た。 「時間の概念」「死者に祈りを」「言葉の本質」 手に持つ三冊の本の中から、一際分厚い「死者に祈りを」に手を掛ける。著者は外国人で、翻訳者は何度か目にしたことがある名前だった。物語らしいそれに、視線も意識も飛ばす。 それは、悲しいお話だった。  
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