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そして世界がはじまった。
そこは青々とした草原の、少し堆い丘の上、青々と茂る広葉樹の木陰。
手の届く所には清らかな小川が流れ、鳥が囀り、葉の合間から射す木漏れ日は柔らかに世界を包む。
見渡せば広大な草原の向こうに森の影、少しズレて山裾が広がり、川が流れ、海に注ぐ。
靄の掛かる額に手をあて、しばし考察する。
緩やかな小春日和。
生命が満ち、新たな希望をそこはかとなく抱かせる空気。
太陽は真上にかかり、空高く雲が浮かぶ。
天国とはこういう場所であろうか。
一枚布のローブはシルクのような肌触りだが、冷たい感触はなく、重さも感じない。
と、草原の向こう、森から一頭の雌鹿がやってくる。
なぜ雌だと確信があるのかわからない。だが、そう言いきれる自信があった。
やがてたどり着い雌鹿は一房の葡萄を僕に手渡し、一度頭を撫でると満足したように森へ帰っていった。
手元にはよく熟れた葡萄が一房。
千切って口に運ぶと、種の無いその一粒が口腔に甘い歓びを運びこむ。
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