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そして世界がはじまった。
高い高い山の上。
雲なのか霧なのかの区別も無い。
水墨画のような世界。
視界は山肌むき出しの垂直な石山の群が占め、下に目を向けると小川が流れている。
長い尻尾の鳥が優雅に空を舞う。
なるほど、天国と呼ばれる事はあるだろう。
靄の掛かる額に手をあてしばし考察する。
流れる風は心地よく、雲に隠れた日光は緩やかに地表を照らす。
導師服は少しの重圧を体に与え、背筋に一本太い針金を通されたような心地よい緊張を与えてくれる。
空高く舞っていた鳥が高度を落とす。
やがてそれは燃えるような赤い羽根を眼前に見せつける。
脚で器用に掴んだ桃を手渡すと、火の粉のような綿毛を散らしながらまた空高くへと昇ってゆく。
皮のついた桃にそのままかぶりつく。
甘い果汁が溢れ出し、口腔を潤す。
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