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…パサリ、とありふれた音をたてて最後の花弁が舞台に落ちた。
「…………えぇっとぉ、こんにちは!!」
強すぎる光源の真下に居る哀れな道化師(=『そらのかなた』)の、チカチカする視界の片隅に故郷に残してきた両親の顔が浮かぶ…始まったばかりなのに、なんだか泣きたくなってきた。
「皆さん此度はお集まりいただき後衛、じゃない公営、でもなくてっ、…え~、光栄の至りです。ありがとうございますっ☆」
よし、だんだん息も整ってきた。
小さなぬいぐるみの道化師は、今にも崩れて解体しそうな古めかしい机の上でジャンプして一回転したかと思うと、スタッと小気味よい音をたてて着地した。
「やぁやぁこれにあるは、そらのかなた!道化師、本の虫、ミスダーティ。伝説のごときニックネームは山とあれどたいしたものは何もない、一介の小市民さ!」
大失敗のスタートから口をポカンと開けて唖然としていた観客からようやくクスクスと笑い声がそこかしこで挙がった。
「なんだかめちゃくちゃだな」 「あら、そこがおもしろいわ」「ママー、あの人へん~」
「あるときは本の虫となり、あるときは他人さまの小説を偉そうに批評し、あるときには本について語り、私生活では世の因果応報をかみしめて生きる私を人は道化師と呼ぶ!!!」
カッコイイ…………ひかり輝いた舞台上で、一際かがやく我がセリフ……そこらに生息する「いけめんはいゆぅ」よりも、黒い車体を誇り高く掲げて走る生きるお金持ちのステータス「べんつぅ」よりも、カッコイイ!
「カットォ!!!!!!!」
「…ってえぇ?どうしてですか」
素晴らしい時間はあっという間に終わった。
「前降り長すぎなんだよこのクソピエロット!ふぁっーく!!」
「……あ、あなたは店長じゃないですか。招待してないですよ。てか何もこんなとこにまで来なくてええやんけ。」
「何かましとんじゃこのアホンダラァ。猿マネのつもりか?あ?なに大阪人なめとんのや、あ"ぁ?」
とか言い合っているうちに警備兵が来た。
「店長なにやってんすかもう…バカだなぁ」
「お前もバイトのくせに生意気やん!!」
もう帰りますよ、そうだあんためんどくさかったからラーメンおごってくださいね~とかいいながらずりずり引きずっていく警備兵。その名をやなかという。
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