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『消えた客』
深夜人気の無い郊外で、一人の若い女が手を上げた。
タクシー運転手は直ぐさま女性を乗せ、行き先を聞くと女性はうつむいたまま
「真っ直ぐ進んで下さい・・」
とだけ暗く小さな声で言う。
女性は乗車後もずっとうつむいたままで、重苦しい空気を払拭しようと運転手は女性に色々と話し掛けるが返事はそっけなく
「ハイ」だけである。
女性の言うままに車を走らせると家に到着した。すると女性はどうやら財布忘れたらしく支払いが出来ない。
すると「お金を家に取りに行きますので、このバックを置いていきます・・・・・」
お金を払わずに逃げるような人間ではなさそうなので、「分かりました」と運転手は了解した。
しかし、女性は戻って来ない。
しびれを切らした運転手は女性宅にバックを持って伺うと両親と思しき中年夫婦が出てきた。事情を話しバックを見せると夫婦は泣き崩れた。
「娘は先日事故で亡くなったのですが、そのバックは生前使用していたもので、事故の時に無くなっていたんです。」
死んだ娘の霊がタクシーに乗って帰宅したというのだ。
「運賃はおいくらだったでしょうか?」との両親が言ったが、運転手は御代は受け取らずに帰った。
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