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あたしは屋敷の二階、東向きにある自室に向かった。陽当たりが良いのは好きなんだけど、寝坊ができないのがたまにキズかしら。
細やかな彫刻の施された扉を開けると目に飛び込んで来るのが机。確かに扉の正面に有るから当たり前なんだけど、屋敷を出る時は何も置いて無かったはずなのに勉強道具が一式並べられてる。
……さてはセバスチャンね。こういうあからさまな嫌がらせをするのは彼くらいだわ。
あたしが少し好戦的な胸の高鳴りを覚えた時、閉めた扉をノックする音がした。
噂のクソジジイが来たようね。
「着替えをお持ち致しましたぞ。む? どうされましたかな?」
ノックの返事も待たずに扉を開け、あたしの顔を見るなりそう言うセバスチャン。
どうやら強制的に勉強させるつもりだった事はとぼける方向で行くようね。
「……まぁ良いわ。それにしてもいきなり開けるなんてどういうつもり? あたしが着替えてたらどうするのよ」
文句を言うあたしに、しかし彼はにっこりと素敵な笑みを見せる。
「そんなわけないでしょう。……着替えはここにございます。第一お嬢様のショボい裸を見ても嬉しくありません」
屋敷に老執事の悲鳴が響き渡った事は言うまでも無い。
「コホン。それでは事の顛末を聞かせて頂けますかな?」
曲がってしまった鼻眼鏡のフレームを指で直しながらセバスチャンが言う。
どうせ伊達なんだから掛けなきゃ良いのに。老執事には鼻眼鏡が標準装備なんだそうな。
……変なこだわり。
あたしは今日の事件の内容を聞かせてあげた。
さりげなく片付けた机の横にある備え付けの椅子に腰掛けた彼は、ベッドに座るあたしの話を頷きながら聞いていた。
「……なるほど。やはり奥様はスパイでしたか……」
やはり?
って事はセバスチャンはその事に気付いていたのかしら?
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