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――時刻は零時の五分前。
『深夜零時の逆転劇』という呪いである以上、深夜零時に発動する呪いのはず。あたしは少し緊張しながら自分の部屋で椅子に座って時計と睨めっこしていた。
部屋の扉が叩かれる。
その音に少しびっくりし、跳ねる鼓動を抑えながら扉を開けるとセバスチャンが立っていた。
「やはり起きておいででしたな。暖かいお茶をお持ちしました」
……気が利くじゃない。
執事とはいえ、そういえばあたしを育てた張本人なんだわ。あたしの事なんかお見通しって訳ね。
彼の気配りで不覚にも涙が出そうになり、あわてて振り返り小走りに椅子へと戻る。
こんな時間なのにきっちり執事服を着こなし、少しも曲がっていない腰をしっかりと伸ばしてお茶の載ったトレイを持った彼は、優しい笑みを湛えて部屋へと入って来た。
あたしの座る椅子の前にある備え付けの机に一式を置き、あたしに声を掛けて来る。
「さて、いよいよですな。お嬢様に掛けられた呪いが本物であるかどうかをこの目で確かめねばなりますまい」
あたしはさっそくお茶を頂きながら訊いてみる。
あら。おいしいじゃない。
「ん? 確かめる必要あるの?」
カップに口を付けたままの質問に執事は呆れた表情で答えた。
「奥様の話が本当なら、お嬢様は男性の姿になってしまわれます。その現場を実際に目撃した者が居なければ、その男がお嬢様だと誰が証明するのですかな?」
「んー。多分見れば分かるんじゃない?」
「すごくアバウトですな」
「……アバウトで悪かったわね」
なるほどね。一応心配して来てくれたんだ……。
あたしはもう一度時計を見ると、変な爆発とかが起きた時の為に部屋の真ん中に立った。
そろそろ時間だ。
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