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翌朝。
起きたあたしはベッドの脇に置いてあった服を着る。多分寝ている間にセバスチャンが置いてくれたのだろう。
寸法はぴったり。デザインは普段着って感じだけど動きやすいから文句は無いわ。色が黒で統一されているのはセバスチャンの趣味かしら?
長い黒髪をいつも通り後ろで一つに結び、朝食が準備されているであろう食堂に向かう。
「おはようございます。お嬢……様?」
階段ですれ違ったモーラが自分の挨拶に違和感を感じている様だ。
うん。あたしが男の姿になった事はみんな知っているみたいね。
そしてあたしの呼び方に困るという気持ちは凄く良く分かるわ。
あたしは苦笑いしながら短く挨拶を返し、一階の食堂に到着した。
「おはようございますお嬢様。旅の支度は出来ておりますゆえまずは朝食をお召し上がり下され」
そこにはいつも通りの笑顔を湛えた執事が居た。
何かちょっと安心する。
そして彼の格好がいつもの執事服ではなく、厚手の生地で作られた旅装束である事に驚いた。
どちらかと言うと探検家みたいに見えるわ。
「セバスチャン。その格好どうしたの? それで右手にナプキンは凄く似合わないわ!」
「そっちですかお嬢様。……何、私も旅に同行させて頂こうかと思いましてな」
うわ。やっぱり。
足手まといとは言わないけれど、敵国に乗り込む危険な旅になるはず。そんな事に付き合わせるのはさすがに悪いわ。
「おや? ご不満そうですな。私が道案内兼身の回りの御世話では不服ですかな?」
う。確かに道が分からないわね。
しかもお嬢様育ちの自覚はあるから身の回りの事が満足に出来る自信も無い。
これは……諦めるしか無さそう。何より本人が楽しそうだもの。
絶対旅行か何かとしか考えてないに違いないわ。
あたしはため息を吐き、ひとまず朝食をとる事にした。声に違和感があると無口になってしまうわね。
女言葉になっちゃうから変で仕方ないわ。
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