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手にした扇子で口元を隠し、わなわなと震えていたお義母様が急にあたしを睨み付けて来た。
「この……小娘が! 深遠なる計画の妨げとなるならば生かしてはおけん。ランス……この場で始末せよ」
お義母様の目が細められた……と思ったけど元々細いから眉間にしわが寄っただけだったわ。
物騒なことを当たり前のように言い慣れたその口調で分かる。
この人は本当に悪い人なんだ。
「お父様のどこに惚れたの?」って質問に「お金持ちな所」と答えた清々しいお義母様はどこに行ったのかしら……。
密談相手の、ランスと呼ばれた男は静かに剣を抜き、あたしの方へと近寄って来る。
――冗談じゃない!
こんな所でひっそりと殺されてたまるもんか。
そしてあたしは気付く。
この『森の中』という状況で剣を抜いたランスという男。大した相手じゃない。
普通はナイフとかの使いやすい物を選ぶはずだわ。
小さい頃からセバスチャンと死闘を繰り広げて来たあたしにとって、ろくに振り回せないであろう剣など恐れる程のものじゃない。
……行ける!
「死ねぃ!」
あたしはその声に合わせ跳び退き躱わす。袈裟気味に降り下ろされた剣は狙いどおり、あたしの右隣に有った樹の幹へ深々と食い込んだ。
「えいやっ!」
「はうっ!」
動きが止まった瞬間に踏み込み、男の大事な部分を容赦無く蹴り上げてやった。
きっと本気でつらいのだろう。顔面は蒼白、なかば白目をむいて口をパクパクと開閉している。
可哀想だけど、こっちも余裕無いのよね! そのまま蹴った右足を引き戻し、鎧に守られていない顔面をさらに蹴り上げた。
それはすでにやや前屈みになっていた彼にとって、痛恨の一撃だったみたい。
剣の柄を手離し、内股でフラフラと後ずさりすると、仰向けに伸びてしまった。
ふん。いくら軽装鎧だからって、急所を守る部分くらいは残しておくべきだったわね。
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