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「ランス、良くやった。これで私達の勝ちよ!」
セリフがおかしい。勝ったのはあたしなのに。
心持ちうわずったお義母様の声を聞いて、あたしは即座に振り向いた。
――目の前に迫る光球。
この男は単なる時間かせぎ!?
避けられるタイミングじゃない!
「きゃあぁぁあ」
胸の真ん中が熱い。思わず悲鳴を上げちゃったけど、女の子らしい悲鳴が上げられた事に自分でもびっくりしていた。
凄く強い力で胸を押さえ付けられて息ができない。体ごと背後に勢い良く押され、背中に木の一本が衝突する感触が伝わって来る。
どうしよう、どうしよう。あたし今どうなってるんだろう。
「クッ! 父親譲りか……ならばこうしてくれる!」
お義母様の声が聞こえる。お父様がどうしたんだろう? そしてこれ以上何をするつもりなの?
入って来ない空気を無理矢理吸い込み、理解できない現状を見てみるために目を開いた。
両手を突き出したお義母様と、あたしの胸を貫けずに停滞する白い光球。
――もしかしてあたしもお父様みたいに……?
しかしそれは甘かったみたい。
髪を振り乱して、鬼女の様なヘアスタイルになったお義母様が何か言った瞬間。胸の前の光球が闇色に染まり、その全体から無数の黒い触手を伸ばして来たのだ。
うわ。気持ち悪い!
自分の顔が引きつるのが分かる。でもそう思った時にはすでに全身を背後の木ごと絡め取られていた。さらに球体が顔に迫って来る。
ちょ、ちょっと。最悪!
色が変わって熱くは無くなったみたいだけど、気色悪さがダントツにアップしてるモノがよりによって顔に迫って来るなんて!
「もがっ!」
く、苦しいっ!
そして悲鳴が可愛くないわ!
必死に息を吸おうとするんだけど球体はそれを許さない。
ヤバい。これは死ぬ。
頭がぼうっとし始めた頃、球体が更なる変化を起こした。
口から、鼻から、体の中に入って来るのだ。感触は麺類に近い。
さすがに鼻から食べた事は無いけれど。
その黒い麺類はあたしの体にするすると入り込み、胃に溜まらず感触が消えた。
「ケホッケホッ……何よコレ?」
うう……変な物食べちゃった。
気持ち悪い。
吐き気をこらえつつお義母様を睨み付けると、満足そうな様子で頷いている。
……気に入らないわね。
はっきり言いなさいよ。
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