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「に……贄とか、贄じゃないとか、一体なんなんだよ…………」
「………………」
恐怖を何とか拭って俺は口を開いた。だが彼女は一瞬だけ蔑みのような目線を向けたかと思うと、辺りに落ちている腕を無造作に拾った。
……嫌な音が響き渡る。彼女は俺を無視してその腕を食べ始めたのだ。
先ほどのような化け物染みた口ではなく、その人間の顔のまま咀嚼し始めたのだ。
それは、かぶりつくといった食べ方だったが、どことなく気品を感じる。
「お、おい、無視するなよ」
全くの無視。まるで俺の声が空気を伝わってないかのような幻想すら感じる。
響くのは、咀嚼の音だけ。
「おい、んなもん食って腹壊さないのか?」
俺はなおも、見当違いの言葉を発する。
彼女は少々苛ついた様子でこちらに向き直る。
「少々うるさいわよ、肉」
肉? こいつ今、俺に向かって肉って言ったよな?
まさか、やはり俺のことを食う気なのだろうか。
俺は思い出したかのように、またふるえ出す。
「や、やっぱり、俺のこと、食うつもり、なのか?」
「別に。メインディッシュの役すら果たせない出し殻には用は無いわ」
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