夏物語

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 燦々とした日差しが俺を襲う。雲一つ無い晴天。  蝉の鳴き声や、ムシムシした暑さが、もう夏なんだと俺に訴えかける。    前は、こんな夏の風物詩など暑苦しいだけだと感じていたが、ふむ。今ではとても美しく感じるから不思議だ。  街が変わったわけじゃない。きっと俺自身が変わったからだろう。    街行く人はみんな半袖。ほぼ全員が額に汗を流して暑さを感じている。  もちろん、この俺も。  だからこの、たまに流れる青空の元の風は気持ち良く感じ取れた。      学校は、この坂道を登ってすぐだ。  制服に身を包んだ俺は、これだけの事でも汗を垂らしてしまう。  蝉さんよ、あんたらの寿命は一週間なんだからもう少し静かにしてくれねぇかな。暑さを助長してかなわん。   「わ、片桐。汗だくだね」   「ふん、この暑さにまいらない奴なんて、人間じゃないぞ」   「うん、そりゃそうだけどさ。猫背で口を半開きにしててさ、なんだか不気味で」    俺はそんなだらしない表情をしてたのだろうか。  全く、夏というのは人間の魅力でさえ奪ってしまうのか。許せん。
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