夏物語

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 反応を示さない奴は、頭がよろしい方々か、成績など既に捨てている愛すべき馬鹿かどちらかだ。    俺は全く気楽に構えていた。先ほど述べた、頭がよろしいわけでもお馬鹿さんなわけでもどちらでもない。  こちらには秘策があるのだ。   「てけてけさん、信じてるぜ」   「モーマンタイ!」    彼女は大丈夫だと言わんばかりに、胸を大きく反る。  ふっ、心配は無用のようだ。俺は勝ちを確信する。    秘策とは。  俺以外誰にも見えないてけてけさんが幽霊という特性を利用し、カンニング……というより他人の答えを丸写しする事だ。  ちゃんと席が離れていてそれなりに頭がよろしいお方の解答をだ。    グッジョブ、てけてけさん。    俺はニヤリと口を歪ませて、てけてけさんに親指を立てる。  てけてけさんもニヤリと笑い、親指を立てた。    げへげへへ、越後屋ぁ、主もなかなかワルよのぉ……!    多分、今の俺は見る人が見れば時代劇の悪代官とそっくりだっただろう。  いやいや、てけてけさんを利用してるわけじゃないんだ。てけてけさんにちゃんと学校生活の一環としてテストを受けてもらった訳なのだ。
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