夏物語

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 でもカンニングはいけないって?    ノンノンノン、甘いね。  誰だって『立ち入り禁止』という立て札があったら逆に入りたくなるだろう。  人間とは禁忌に触れたがる存在だ。禁忌に触れて、そして自己の確固たる存在を確認してみたくなるわけ。  つまりカンニングとは人間として至極もっともな行為なのだっ!(断言)   「おい」    ゴツンと拳骨をお見舞いされる。  どうやら犯人は俺の友人である尚之のようだ。いつものごとく不機嫌そうな目つきで席に座っている俺を見下げる。   「自分の世界に入ってるところ悪いんだがな、呼ばれてるぞ、テスト」    クイっと親指で教壇をさす。  名前を呼ばれた生徒が一名ずつテストを返してもらう形式なのだが、どうやら俺の番を巡ってきたようだ。  オーケイオーケイ、と軽口を叩いて軽い足取りでテストを返しにもらいに行った。   「片桐、お前今回は頑張ったな」   「ふん、実力ですよ実力」    さわちゃん先生の誉め言葉に、俺はさも当然のごとく振る舞う。  点数は……八十六点。いつもより二十点近く点数が高い。  馬鹿と秀才が入り混じるこの学校(ちなみに私立)で、点数が極端にあがるなど稀有な事だった。
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