死の螺旋

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 投げ捨てられたかのように何かが落ちる音。そして咀嚼するような、何かをすするような、そんな音。  何かがポキリと折れるような音も聞こえる。    すぐ脇に見える教室からだ。  俺の中の恐怖心は警告を発する。何か危ない、と。  俺の中の好奇心は、中に入ろうと言う。    ……何が怖いのだろうか。  世の中幽霊や妖怪などというものが存在するとでも。    理性を起こし恐怖心を説得すると、俺は音をたてて教室の戸を開ける。      ――嗚呼、なんて綺麗なんだ。      一瞬、俺はそう思った。思考が麻痺していたのかもしれない。  だが見とれてしまったのは、嘘ではない。    真っ赤に染め上げられた教室。  無造作に地面に転がる、胴体を失った腕や足。  妖艶な笑みをうかべて全裸で立つ女。  その手に持っているのは、生首。それはまるで黒い月のようだった。    それはさながら、禁忌の美を象徴したかのような美しさ。    次の瞬間、突如として嗚咽が襲ってきた。  俺の思考が再開したのだろう。そこにある『モノ』がなんなのか理解してしまったようだ。  俺はその場で胃の中にあるものを吐き出す。
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