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ずっと先輩は僕のことが好きだとばかり思っていたから。僕だって先輩のことが好きだとしか思っていなかったから。目を大きく見開いて、つい先輩のほうを見てしまった。
――ああ、思い人がまた別な人に恋をしていると胸がとても苦しくなる。これを嫉妬と呼ぶ以外、一体何があるんだろう。
(三角関係とかそんなものなんて他人事だとばかり思っていたから、実際に身近で起こるなんて思わなかったな)
先輩は僕の様子なんか気付かず、目の前のキンちゃんに告白しようと試みている。結局僕はショックのあまりかそのことに口出しも何も出来ず、ただの傍観者状態。……何をどうしたらいいかなんて、全く思いつかないよ。
「俺は――!!」
「僕はねェ~♪」
突然、先輩の言葉をかき消すようにキンちゃんの後ろから気の抜けた声が聞こえてきた。いつの間にかリュウタは、キンちゃんを後ろから抱きしめるような形でキンちゃんの後ろの椅子から身を乗り出していた。幸せそうな表情をしながら、キンちゃんに頬を摺り寄せている。キンちゃんもキンちゃんで……満更でもなさそうに見える。
……そっか。これだ。僕がキンちゃんに気持ちを伝えられない理由。リュウタが居るから、リュウタがキンちゃんを好きだってことを知っているから。中々、あの言葉が言えなかったんだ。それにたった今気付いた僕は、悔しくて仕方が無いのは、たぶん気のせいじゃないんだろうね。
「なんやリュウ?」
「僕はね、僕らの目なんかよりクマさんの目のほうがずっとずっと宝石みたいで綺麗だと思うよ!」
「ほんまか?ありがとな、リュウ」
そういってリュウタを撫でるキンちゃんの表情は、心無しか僕らと話しているときより和らいでいるように見えた。
「テメ…!俺が言おうとしてたこと言うんじゃねぇ!!」
声を荒げて、まるで子供のように駆け足混じりで先輩はリュウタへと近付いていった。
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