1人が本棚に入れています
本棚に追加
リュウタは「キャー!助けてクマさん!」なんて棒読みの台詞を口にしながら頭を抱えてキンちゃんの懐へと飛び込んでいく。流石の先輩もその状態のリュウタを殴るのはそこに居るキンちゃんを殴るみたいで気が引けるのか、拳を振り上げたまま止まってしまった。
(そこで殴ってしまえば、僕も一歩進めるかもしれないのに)
「……なんや、モモンガもリュウと同じ風に思っとってくれとったんか?」
あまりにも優しすぎる声で投げかけられた問いに、先輩は少し間を空けてから小さな声で頷いて「…おう」と答えた。真っ赤になった先輩は――やっぱり可愛い。
だから『僕は先輩が好きなんだ』ということは紛うこと無き事実であり、『僕はキンちゃんが好きなんだ』ということも、これもまた消えることの無い事実であった。
「ククッ。お前ら、面白いわ。俺が言ったことそっくりそのまま言い返してきおって。冗談にも程があるで」
突然キンちゃんは、僕らの様子を見ながら口元に手を当てながら声を抑えて笑い始めた。軽く俯きながら瞳を伏せている。周りから見たら、肩を揺らしながらのその姿は、泣いている様にも見える。でも感情を隠すことが出来ないキンちゃんは、きっと本当にただ可笑しくて笑っているだけなのだろう。何故かその姿を見たら、さっきまでこんがらがっていた感情の糸が少しほぐれたような気がした。
.
最初のコメントを投稿しよう!