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「べ、別に俺は「僕は本当のことを言っただけだよ、クマさん?」
またもや自分の台詞を言われて、先輩は声にならない叫び声を上げた。でもその分行動がいつもより激しくなっているから、結局はいつもと煩さは変わってないんだよね。そのまま先輩は、キンちゃんの上が定位置になりかけているリュウタを必死で剥がしにかかった。ずっと抱きしめられて、悔しいのかなぁ。…僕もそれは同意見だけどね。だけど一筋縄でいかないのがリュウタだから。こっちも必死でキンちゃんに抱きついて離れまいとしている。キンちゃんは困ったように笑いながら、その様子をただ眺めているといったところだ。
こうして離れて見てみると、不意に皆自分の感情を抑えることなんかしていないことに気付いた。
(それに対して僕はただの作り笑顔、か)
完璧なつもりなんだけど、きっとどこかでボロが出る。もしかしたら今も引き攣った笑顔を浮かべてるかもしれない。そんな笑顔しか出来ない。
きっと、本当の感情を出すのが、怖いから…なのかな。
本当の感情をさらけ出してしまえば、絶対に歯止めが利かなくなる。だから…嫌なんだ。
「……どうしたんや、亀?」
「え――」
考え事をしていたから、ついあからさまに驚いた声をあげてしまった。視線の先では、きょとんとした様子のキンちゃんの顔が此方を向いている。一方先輩とリュウタは僕の声など気付いているのか気にしていないのか。未だに喧嘩という名のじゃれ合いを続けていた。
「どうした、って?」
「ん、いやぁ。さっきから何も喋っとらんかったし。それに視線がどっか行ってたから、何か考え事でもしとったんかなぁ…って思てな」
……意外と人のこと見てないようで見てるんだなぁ。なんてキンちゃんを改めて見直した瞬間。こっちまできょとんとした顔にさせられたよ、これは。
「なんや深刻そうな顔やったから、ちょっと気になってな。何やら俺が相談相手にでもなってやろか?言うてみ」
両の口角を上げてキンちゃんはニッと笑った。目を細めながら笑っているけど、それでも視線は真っ直ぐに僕の方を向いていて。あまりにもふざけているのにどこか真剣すぎるそれに、僕の中で何かがはずれたような気がした。
(……君の前じゃ、僕は隠し事も出来ないのかな)
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