小さな村と旅人

2/2
前へ
/12ページ
次へ
私の国には、森の奥のさらに奥には小さく長閑な村があるという噂があった。 その村は私の住む国と向かいの国。その2つの国の狭間に位置し、どの国とも交易を行ってこなかったという。 2つの国は狭間に位置するその村を攻め、領土の拡大を幾度となく謀ろうとしてきた。 しかし、両国とも成果はなく、遣わした兵の姿を2度見ることは叶わなかったという。 村は森に囲まれていて、この森にも奇妙な話がつく… ある人に聞けば、火柱が立つのを見たといい、ある人は雷が落ちたともいう。 私はそれらを生涯、見ることはできなかった。 さらに奇妙なのは、その森は2つ目の怪物の巣であり、兵達はその怪物の餌になったのだという話である。 子供じみた話であるにも関わらず、大の大人も恐れて疑わない1つの噂話であった。 そんな奇妙な森をいつからか人々はこう語り出した。 「森には神がいる。あの怪物は神の化身だ」と…。 春― 微風が草木をなで、花が芽吹く頃、私の住む国にとある旅人が立ち寄った。 齢は30~40歳くらいの男性で、その両脇には2人の子供を連れていた。 旅人は、国の中で森の小さな村の噂を国民から聞き歩いていた。 私も、その旅人と話した。その旅人は私のような子供の話でも真剣に聞いてくれた。 そして、旅人が来てから1週間ほど過ぎた頃、国から旅人たちの姿が突然消えた。 そしてあくる日に森へと向かう大きさの異なる3種類の足跡が残っているのを見つけた。 時は流れ、10数年たったある日、その旅人が戻ってきて、私に1冊の手記を手渡してくれた。次はその旅人が残した1冊の手記に付随する。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加