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「おい、あいつって……」
「アクセルだ……あの変態の」
武棟でもアクセルは有名人だった。それもそうだ。そもそもエリシオンは武術学校としてその歴史を刻み始めた。後に、武術だけでなく、学問も学ぶべきであるとし、学術的な授業も行われるようになった。多くの名戦士を排出し、エリシオンは武術を極めんとする者達が集う場所になっていた。
その学園にあってひとり、反武術を掲げるアクセルは、完全に浮いているのである。
(カイゼルの教室は……確かあそこだったな……)
アクセルは、陰口がまるで聞こえていないかのように堂々と進み、カイゼルの教室の扉を開けた。
「アクセル!?」
突然現れたアクセルに驚いたのだろう。教室の隅で友人と談笑していたカイゼルが声を上げた。
「弁当を返せ」
アクセルはカイゼルの目の前に手を突き出した。
「あ~、そういえばそうだったな。んじゃ、ついてきてよ」
カイゼルはそう言って、アクセルを教室の外に連れ出した。
「いや~びびったよ、まさかほんとに武棟に来るなんてさ」
「弁当がかかってるからな」
「なるほどね」
カイゼルは笑いながらアクセルに手を差し出した。
「なんだよ?」
カイゼルはアクセルの目の前に差し出した手の指を鳴らした。心地よい乾いた音と共に、手のひらに弁当箱が現れた。
「はい♪」
「お前……何者?」
アクセルは渡された弁当箱とカイゼルの顔を何度も往復して見た。
「さあ?」
カイゼルは笑ってはぐらかした。
「さあ、アクセル。ちょいと付き合ってもらうぜ」
「は?」
アクセルが状況を理解する前に、カイゼルに引っ張られて走り出した。
「ちょ、おいっ!!」
カイゼルに為されるままに、アクセルは武棟を後にした。
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