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その火は、それほど勢いのないもので、例の桜の木と、その周辺を焼き尽くすだけにとどまった。鎮火を確認して、夏目は呟く。
「・・・もう、これであの桜、見られなくなったな。冬でも夏でも、美しくて綺麗だったのに・・・」
その呟きに、忍は軽く夏目の頭を小突いた。
「バカ言え、景。桜は散るからこそ、美しいんだぜ?
それに――綺麗な薔薇には棘がある、って言うだろ?」
冗談っぽくウインクしてみせる忍。そんな忍の微笑みに、夏目もつられるように微笑んで。
「…そっか、そうだよな・・・」
そう言って、空を見上げた。
見上げた空の向こうで、中学時代と変わらない小夜子があの時と寸分違わぬ笑みで微笑んでいる。
夏目は、そんな気がした――。
―end―
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