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「先生の話は経験談で、結果結婚しているので否定する必要は無いし、でも女子に非難されているところを見ると参考にして真似をしようと思うことでも無く、そういうこともあるんだっていう知識として受け止めるべきだと思います。」
「ハイ…。」
「それと。」
若林君は続ける。
一志は今度こそ注意されると思い、緊張。
「先生が奥さんの歌に惹き付けられたのは、先生が奥さんを好きだったからだと思います。どんなディーバの歌を聴いても先生みたいに思い出してあんなに幸せそうに語れるとは思えないので。僕もそういう、何気ないことでも幸せだと感じられるような相手を見つけたいと思いました。」
若林君は言い終わるとお辞儀をする。
「…。」
何となく女子を中心に拍手が起こる。
「…先生、若林君のこと好きになりそう…。」
「迷惑です。」
若林君はやっぱりスパッと切る。
「ですよね。ハイ。若林君の意見に同じ人。」
多数の手が上がる。先に手を挙げた生徒も再び。
スゴい。若林君の言葉の力。
一志は感心する。
「お前さっき羽沢の意見に同じだったじゃん!あっ羽沢まで!」
「お前もじゃん!」
「夏川!お前チカンとか言ってたくせに!」
立ち上がってまで。音楽室全体が騒がしく、言い合いを始めた。
これはうるさい。
「ハァアアイ!!静かにしなさいよー!」
一志は黒板をトントン叩く。
一志の声と黒板を叩く音に、生徒は素直に驚き黙る。
「全く、大人だったり子供だったり忙しい年頃ですね、あなた達。」
一志は頭を抱えながら独り言のように、でも後ろまで聞こえるトーンで言う。
生徒達は緊張する。先生怒った?
「先生は人の意見を聞くことはとても大切だと思っています。先生はよく、この意見に同じの人と聞いていますが、一言一句違わず意見が同じだとは思っていません。複数の人の意見に共感出来る人が居てもいいし、人の意見に心を奪われ、考えが変わるのもいい。人の意見を聞いて自分の考えを深めましょう。先生に教えてくれても教えなくてもいいから、最終的に自分自身の答えを出すことが大切です。」
生徒は黙っている。
こういう話は聞いて無いんだろうな。
熱く語っても熱くなるほど生徒の耳は遠くなる。
「じゃー、夏川さん。あなたは先生をチカン呼ばわりしましたが、その時思った事と、若林君の意見を聞いて、どう変わったのか、教えてください。」
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