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「ただ、何より、何故、今回星の界を選んだかというと、それは、大人達の事情というモノです。先生はキリスト教なので、授業で讃美歌や聖歌を歌わせ、宗教勧誘、洗脳など言われるのが恐ろしいので、授業ではいつくしみ深きは歌いません。興味があったら、楽譜を差し上げますね。」
―キーンコーンカーンコーン―
救いの鐘が鳴る。
「あー、ハイ。じゃあ、次回の音楽は歌いましょうね。絶対。」
号令を掛ける。
ぞろぞろと席を立ち、足取り重く生徒達は音楽室を出て行く。
あー、皆落ち込んでる…。頭痛てぇ…。
「夏川さん。」
一志は席に座ったままの夏川さんに声を掛ける。
「今日の給食のメニュー、なんですか?」
「……鮭です。」
「魚か…。魚好きですか?」
「いえ…。」
「先生も魚、苦手…。」
何の話だっ…。
一志はそのまま音楽室を出る。
あぁ…。あー…。
電話したい。
声だけでいいから聴きたい。
もう、帰って来てるかな…。
泣き言を言えば、さすがにまずは優しくしてくれるだろう?
一志はケータイを持って職員室を出る。
「先生…。」
「え、あ、ハイ。」
職員室の前で声を掛けられ、振り向くとおじおじしている夏川さんを真ん中に生徒が3人立っている。
えぇー…。
怒られんの?俺。
「どうしました?」
ドキドキしながら聞く。
「あの…、チカンって言ってすいませんでした…。」
「え、いや。怒って無いよ?」
「でも…。先生とお嫁さんには…私が知らない…のがあるのに、悪口言ってごめんなさい。」
「……。うん。分かった。ありがとう。」
一志は微笑む。
「あの…、いつくしみ深きの楽譜を…ください。」
「あ…。今日は持って無いです。月曜日でいいですか?」
「ハイ。」
「…?」
夏川さんはまだおじおじしている。
「あの…。……怒らないでくれてありがとうございました。」
夏川さんは一礼をするとクルッと振り返って早足で去る。
両脇の二人も一志に一礼をして夏川さんを追い掛けて行く。
へぇ…。
一志は職員室に戻る。
何か、気持ちが軽くなった。
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