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6月。
梅雨に向けてどんどん寒くなる。
一志は一人。
絶望のふち。
結婚して7年。初めて彼女の居ない家。
寒い。
「パパ。」
リビングのソファに膝を抱えて、何を見る訳でも無く目を開けている一志にモモがトンと足に抱きついて来る。
あぁ…。一人じゃなかった…。
一志は起きて来てしまった我が子を見て思い出す。
「…モモ?何するの?」
一生懸命自分の足によじ登ってくるモモに聞く。
「乗るの。」
モモは奮闘しながら一志の質問に答える。
「そうなの?頑張って…。」
モモの背中を支え、落ちないように見守る。
手のひらが幸せを感じている。
「よし。」
モモは一志の腹の上に座って、どうだっ!て顔で満足そうに笑う。
「うん。どうしたの?」
「ギュウしてあげるの。」
モモは一志の頭に短い腕を廻して力をいれる。
「モモ、パパちょっと痛いかも。」
「パパ、大好きよ。だぁーいー好きぃー。」
愛しい声。耳に入るだけで、姿が目に映るだけで幸せ。自然と顔がほころぶ。
彼女の父親もこんな感じだっんだろうか。
目に入れても痛くないなんて言わないが、そうして欲しいって言われたら、どんな痛みも耐えられる自信がある。
温かい。小さい。愛しい。愛しい。
幸せをくれる愛しい子。
愛しい人との子供。
「大好き!」
モモはまた腕に力を込める。
一志は微笑んでモモを抱き締める。
「パパもモモが大好きよ。でもモモ。寝る時間だろ?」
「!…いー。いーいー。」
モモはハッと一志を放して、遠慮するように手を振ってみせる。
「いやいや。良く無いでしょ。おいで。」
一志はモモを抱き抱えて立ち上がる。
モモは素直に一志に掴まって、抱っこを喜ぶ。
「重くなったね。何キロ?」
一志は日に日に我が子の重みが増すのを感じる。比例して存在も、愛情も。
グレたら減るのかな?減らないだろうな…。
自分の愛は減ることを知らない。
「パパ。女の子に体重聞いちゃダメよ。ママに言われてるでしょ?」
「あら、ゴメンね。」
モモにメってされ、一志は呆れながら笑う。
子供はよく見てる。
俺達両親を。
心配は無いはずだった。
自分ほど深い愛を持ってる奴は居ないって自信があったから。
今だって…。
愛を自覚すると顔を見たくなる。
「モモ。ママに逢いたいね…。」
悲しそうに呟く一志に、モモはつられて悲しくなる。
「大丈夫よ…。明日帰って来るからね。」
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