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ウチの玄関ドア前で一志は立ち止まる。
そっとドアに耳を当て、子供達の声を確認する。
楽しそうな喜声。
―ピンポーン―
緊張する手。いつも通りインターホンを押した。
「パパお帰りなさい!」
「ママ帰って来てるよ!」
蓮とモモが嬉しそうに一志の足に抱き付く。
確実に、パパが帰って来て嬉しいのではなく、ママが帰って来てテンションが上がっている。
「ハイ。ただいま。」
一志は二人の頭を撫でる。
「奈央。ただいま。」
一志はキッチンの奈央を見る。
背中が気まずそうな空気を出している。
「おかえり。」
奈央は振り向かずに返す。
どんな答えを出した?
聞きたい。でも恐い。
「パパー。」
モモが両手を伸ばして抱っこをせがむ。
「えー?」
そう言いながら笑って一志はモモを抱き上げる。
「パパ。皆でギュウだよ。」
蓮の言葉に一志も奈央もビクつく。
いつも、していること。
子供達にはまだ、両親の心が離れていることは気付かれていない。
いつ、知られてしまうんだろう…。
気付かずに蓮ははしゃぎながら一志をキッチンに引っ張る。
「ママ抱っこ。」
奈央の近くに一志を引っ張ると蓮は奈央に手を伸ばす。
「う…。」
奈央は重そうに蓮を抱き上げる。
「重い?ゴメンね?」
蓮はママの心配をする。
「余裕よ。」
奈央は蓮にピースをして笑う。
ずっと恋しかった顔。
鼻の奥がツンとする。
胸が痛い。
「蓮。早く大きくなってママを抱っこしてあげような。」
一志は蓮の頭を撫でる。
「おう!」
蓮は親指を立てて一志に見せる。
「…あと筋力付けないと、ママ、年々重くなるから追い付けないかも…。」
「パパ!」
モモと蓮に叫ばれる。
奈央にも睨まれる。
いつもの、怒る顔。拗ねる時もこんな顔をする…。
一志は目があっただけで嬉しくて笑える。
「女の子に体重の話はダメって言ったでしょ!」
モモが怒ってる。
「そうだったね。ごめんなさい。謝るからギュウしていい?」
モモを見て言うが、本当は奈央に言っている。
「反省してる?」
モモはいつもの奈央を真似してる。
「うん。してる。」
「じゃあいいよ。」
モモは嬉しそうに片手を一志の首に回し、もう片手を奈央に伸ばす。
蓮も片手を奈央の首、片手を一志に伸ばした。
一志は一歩奈央に近づく。
子供達のその片手が両親に届くように。
ギュウ。
奈央はうつむいて一志の胸におでこをつけた。
胸、締め付けられて痛いんだよ…。刺激与えないで…。
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