いつくしみ深き

おかえり

もう、死ぬしかなさそう…。
「何だよ。」
一志は吐き捨てる。
「…。」
奈央は口を開けたまま、一志を見て止まる。
俺が爆発すれば奈央は泣きながら全部答えて楽になるだろうか…。
俺を殺していくことにも気付かずに真実を告白してしまうんだろ…。
今まで誰と居た？
相手は誰だ？
いつから？
何が…俺より…良いわけ…？

「一志…。あ……ゆ……と、どうなってるの？」

奈央の声はウィスパーボイスで、聞き取れない。
その上で、コーラだと思って冷蔵庫からペットボトルをとって飲んだら、お婆ちゃんがたんせい込めて作っためんつゆだった時くらい、覚悟を裏切られる質問が聞こえた。
「……は？」
もう一度確認しないではいられない。
「あ…ゆ…。」
奈央は一人、辛そうな顔をして、目から涙を流している。
「あゆ…？……。」
あゆって…。
「夏川？」
すぐ思い付いた子の名前を出してみる。
「誰よっ…。」
「今担任してる子…？夏川あゆ。今日、泣かせちまって…。」
「何泣かせてんの…。じゃなくて…。アンタの元カノの…。」
やっぱり…。あゆか…。あまりにもぶっ飛んだところから出て来たから直ぐには思い出せなかった。
「あゆね、離婚って言い出した原因はあゆな訳？」
あゆならあり得そう。
アイツが絡むと必ず一志と奈央は心を放され、大きなケンカをしている。
でも、もう何年も無かったハズ。
一番最近は結婚式を挙げる時、呼ぶ呼ばないでもめた。
奈央は呼びたくないけど呼びたいって言い出して、一志がどっちと言っても奈央は一人悩む一方で。式挙げないと言って、結婚まで止めそうになった。
「あゆ…妊娠したって…？」
奈央はうつむいたまま、恐る恐る言葉を引き出している。
「知らねぇよ。そうなの？おめでとう。」
もう読めてきた一志はどっと力が抜ける。そして腹立ってくる。
「知らねぇよって…。」
奈央は自分のケータイを出し、テーブルの上に置きメール画面を一志に向ける。
一志はソファから降りて、ケータイを覗く。
鳥肌が立つ。
【一志の子供妊娠したかも。】
「怖い！マジ怖い！」
一志は思いっきり叫ぶ。
「声大きいっ蓮達起きるっ…！」
奈央は慌てて注意する。
「だっ…おまっ…。」
一志は自分の口を押さえる。
気持ち悪い…さすがに冷静じゃいられない。
「あゆ…怖い…。」
「……。」