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一志は奈央を見る。
奈央はまだ一志から顔を反らして、不安そうな、悲しそうな、怒っているような、そんな顔をしている。
「あなた、これ、信じたの?」
「…分かんないじゃん。」
「…。」
一志は奈央の態度に切れる。
奈央は一志の立ち上がる気配にビクつき、一志を見上げる。
「あ…。嫌!」
一志が奈央の肩をバッと乱暴に掴んだ瞬間、一志の腹に奈央の膝が入る。
「痛ッ…お前っ…。」
一志は一瞬怯むが更に怒りを増す。
「暴力はダメだろ?」
一志は奈央をソファに押し倒して、両手を掴んで冷静に言う。
「やだっ…。」
奈央はボロボロと泣き出す。
「バカァ…大嫌い…。ふ…。」
一志はそれにキスをする。
乱暴ではない、深く強く。
溢れきった感情を全て奈央に還す。
愛と、安心と、怒りと。
愛だけ留まるところを知らない。
奈央の息が上がった頃、一志も深く息を吐き、奈央の上に倒れる。
「…バカはあなたですよ…。俺、あゆの連絡先知らないよ。あなたが消せって言ったんでしょ。信じられないの?今電話しようか?」
「っ…じゃぁしてよ…。」
奈央は腕で顔を覆い、絞り出すように言う。
一志の一方的なキスのせいだけじゃない。
頑張らないと声も出ないくらい、息が詰まるほど泣いてる。
一志は手をテーブルに精一杯伸ばして奈央のケータイを取って、また奈央に乗る。
奈央は一志が自分のケータイを触るのを息を止めて涙を止めながら黙って見る。本当に電話するの?何て言うの?不安と期待を持ってる。
「……。」
一志はケータイの呼び出し音を冷静に耳に、それよりも奈央が映る視覚が心を刺激するのを感じる。
「…奈央…。」
一志は奈央の首筋に口付け、うなじを撫でる。
抱き締めて確認する。
奈央の手が胸を熱くする。
体温を感じる。
「かず…電話…。」
涙で濡れた頬を撫でる。柔らかい。気持ちいい…。
『奈央…?』
奈央にもケータイから声が聞こえる。
「……。一志だけど。」
電話しておいて面倒くさい。それより早く奈央を確認したい…。
『あー。久しぶり~。』
嬉しそうな電話の向こうの声が腹立つ。
何て言って傷付けようか…。
「なんか、ウチのに物凄いメールしてくれたみたいで。」
『あははっ!』
笑い声が勘に障る。
「笑い事じゃないよ。ウチの離婚とか言い出したんだから。」
一志は奈央の頭を撫でる。奈央は一志と反対を向く。
『本当?凄いねぇ。ウケる。』
「ウケません。」
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