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「イラッシャ…!って、オォー久しぶりだねキミ!」
何日か振りに見る彼の顔。
ショーケースを磨きながら、彼は真っ白な歯を見せて笑う。
「あの…あの……」
喉から音が出ない。
あれだけ言うって決めた言葉が音にならない。
「どうしたの?いつもみたいな元気ないじゃん?」
「今日でバイト…終わりですよね……?」
「そうだよ。あんま向こうに彼女待たせてらんないしね!……っと、このプライベート話は余計か?」
《カノジョ…?》
キョトン顔で固まった私に、彼はこう続けた。
「実は俺、この休み終わったら結婚するんだ。このバイト手伝ったのも、独身最後の息抜きだったんだよ」
私は俯いたまま…。
《ヨカッタジャン!コレデ イワナクテ スンダジャン!》
私の心の隅の言葉が話し掛ける。
でもなんかもどかしい…。
《ホントニ ソレデイイノ?ジブンヲ カクシテ…ホントニ ソレデ イイノ?》
顔を上げて彼の顔を見た。
「この街のイイ所を持って行ってもらいたくて…浜辺を探したんだけど小さなヤツしかなくて……一生懸命可愛いサクラガイを探したんだけど見つかんなくて……。街の思い出と私を忘れてもらいたくないから…ずっと私…楽しかったから……」
《ラムレーズンとチョコチップで!》
「私……アナタが大好きでした!」
涙が零れた…。
不安と安心感で声が震えた。
下唇を噛んでいくら涙をこらえようとしても…とめどなく涙が溢れてくる。
「ありがと…。俺も思い出が一つ増えたよ」
彼はそう言って私の手をとった。
「この小さな手で探してくれたんだね…。暑いのにホントありがとね……」
頷くしか出来なかった。
もう私の声を出す事が出来なかった。
ただ頷いて…ただ涙が沢山出たんだ……。
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