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微笑みながらそう言う雪の顔をまともに見てられなくなった俺は、俯きながら「そうか……」とつぶやいた。
「わかった、行くよ。今日は土曜だし、お茶でもしてからゆっくりプレゼントを決めるか」
「デートだねっ」
雪は笑みが浮かんだ表情をより一層輝かせて、
「なら私、一回家に帰って着替えてくるよ!目一杯オシャレしてくるから!」
「雪はそのままでも、十分可愛いよ」
俺が言ったことが聞こえたのか聞こえてないのか、雪は幸福そうに駆け足で部屋を出て行った。
雪がいなくなった部屋は、信じられないくらい静かになった。
やがて、沈黙に耐え切れなくなったのか、はたまた雪の足音が遠くなっていくのを確認していたのか、緋凪が口を開いた。
「ねえ蓮弥、さっきのどういう事?」
「さっきの?」
逆に訊かれた緋凪は、回りくどく訊くのはダメだと察したらしく、意を決して再度訊いた。
「雪菜ちゃんの誕生日のことだよ。あの娘の誕生日、”今日じゃないでしょ”?」
緋凪の言う通りだ。雪菜の誕生日はその名でわかる通り、冬だ。夏が近い今日じゃない。
そう、緋凪は間違ってない。間違ってるのは、俺達だ。
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