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「――昔、雪菜が大怪我したんだけど、知ってるか?」
緋凪は小さく頷き、
「知ってるよ。大体十年くらい前でしょ?小さい頃なうえにその時私いなくて、親から聞いただけだけど。たしか頭を打ったって……」
「そう、偶然に偶然が重なって、倒れた拍子に後頭部を岩に打ち付けた」
思い出を口に出して行く度に、当時のことが頭の中で鮮明にフラッシュバッグする。
視界が歪んだ。立っていられなくなって、思わずその場に座り込んでしまう。
それでも、続ける。神父の前で懺悔(ざんげ)する罪人は、こんな気分なのかなと、不意に思った。
「不幸中の幸で、雪菜の命に別状はなかった。でも」
そこで一旦言葉を切った。込み上げてくる嘔吐感をなんとか堪え、その代わり残りの言葉を吐き出した。
「――――あの時雪菜は、確かに死んでたんだ」
緋凪の目が大きく見開かれた。さすが名探偵を目指してる事はある。どうやら俺が何を言いたいのか察したようだ。
察したようだけど、最後まで俺が言おう。そう心中でつぶやき、再度口を開く。
「雪菜は今までの記憶を失ってたんだ。俺や家族、お前の事、そもそも自分の事すらな」
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