300人が本棚に入れています
本棚に追加
/311ページ
視界が霞んでいる。
世界が、濡れていた。
べつに、雨が降っているわけではない。
ただ、泣いていたのだ。
目の前に広がっている、否定してしまいたい現実から目を背けるように、俯きながら。
自分がやった事を嘆き。
自分がもたらした事を悲しみ。
自分が作り出した罪に押し潰されて、慟哭していた。
「誰か……誰でもいいから を助けて……」
そう、助けて欲しかった。でもその願いは叶わず、時間だけが経過していく。
このままじゃ心が堪えきれないと判断し、できる事をやろうと試みる。
溢れ出る涙を拭い、勇気を振り絞って前を――現実を直視する。
だが、瞬間的に、絶望した。
時間が経った事により、状況はさらに悪化したように見えた。
視界に入ったのは、頭から血を流し、そのせいでできた血溜まりに身を沈める、一人の少女。
近くには血が付着した大きな石が転がっており、少女はその石を頭にぶつけ、怪我をしたのだと推測できる。
しかし、そんなのどうでもよかった。
全ては結果なのだ。
そう、十年近く前の、よく晴れた日。
俺、冬谷蓮弥は、
人を殺した。
最初のコメントを投稿しよう!