回顧録1~傷付け傷付く嘘つき灰かぶり~

3/65
300人が本棚に入れています
本棚に追加
/311ページ
 悲鳴が聞こえて、俺は飛び起きた。  そしてすぐに気付く。今の悲鳴は俺の口から出た物なのだと。  「ああくそ、久しぶりに見ちまった……」  かすれた声で、つぶやく。  本当に久しぶりだった。ずっと見てないものだから、もう克服したのだと思い込めるくらい。  ここ約十年間、一週間に一回は必ず見るあの夢に悩まされていた。  だが、高校に入学してからは、正真正銘まったく見なかった。  だから安心していた。故のさっきの悲鳴。  俺は深呼吸して、心を落ち着かせようとする。それから何でまたあの夢を見たのか、その理由を考え始める。  「……やっぱり、寝苦しかったからか……?」  それくらいしか思い浮かばない。昨夜は暑かったから、この仮説は結構いい線行ってると思う。  そこまで考えて、俺はため息をついた。これじゃあ夏は、毎日のように見るかもしれないじゃないか。  実家は部屋にクーラーがついていたが、当然今俺が借りている部屋に、そんな素敵設備は存在しない。  「……まあ慣れる事はできないけど、こればかりはしょうがないよな……」  いや、慣れる事はできない、じゃない。慣れてはいけないのだ。
/311ページ

最初のコメントを投稿しよう!