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それは音というより、歌声だった。小さな歌声が、書架の向こうからこちらへ流れてくる。
何故か懐かしい感覚がする。それ故か、さっきまで考えていた事を忘れて、まるでそうしなきゃいけないように、立ち上がり書架の奥の闇へと歩いていく。
歌声は廊下からだった。開けたくないのに、好奇心が開けろと訴えて扉を開けてしまう。
扉を開けてまず視界に映ったのは、天井に届くくらいの白い靄(もや)だった。それが廊下の向こう、ちょうど曲がり角の位置に漂っている。
そして、その中で靄と遊んでるように少女が、踊りながら歌っていた。
「…………え?」
そう声を漏らすのに精一杯だった。私の視線は、ただ理由のわからない懐かしさを感じさせる少女にくぎづけで、それ以外のことは感覚が麻痺してできない。
少女はこちらに目もくれず、ただ踊り歌い続け、
そして何の前触れもなく、靄を残して姿を消した。
今度は声を漏らす事もできない。私は反射的に少女が消えてしまった場所に行こうとした。
――が、その前に誰かが私の手を掴んだ。
思わず悲鳴を上げそうになったけど、手を掴んでるのが蒼火さんだと気付き、ぎりぎりのところで堪える。
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