序章 山奥に住む老人の話

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 そうか、そのことか……  お主はわしにそのことを問うのか。  ……お主の問いに答えるのは、いささかわしには難儀なことだ。思い出したくないことを思い出させる。  ……が、まあよい。わしの場合を話してやろう。お主には知ってもらった上で聞きたいことがある。  わしはとある街の大工をしておった。妻子もいてな、妻はわしにはすぎた美しいやつで、子の二人もわしには似ず頭がよくて、自慢の子たちだった。  その街は発展途上で、これからというときだった。そのため仕事の依頼がわんさかあって、毎日が忙しくも楽しかった。  あのころは本当に、良かった。    だがそこへ、まさに幸福を謳歌(オウカ)しているときに……忌々しくもやつらが突然にやってきた。
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