序章 山奥に住む老人の話

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 そういえばお主はやつらを見たことがあるのか?  ……そうか、あるか。ではわかるだろう、あいつらの恐ろしさが。  今でもわしの脳裏にはやつらの姿形がはっきりこびりついているよ。  どろどろとした透明な液体が、人ほどの大きさで、地面をなめるように這うあの姿を。  巷(チマタ)ではラギアス地方の民話の悪戯な水の精霊の名をもじって、アーブスというそうじゃないか。  だがわしにはなぜやつらをそう呼ぶのかわからん。あれは恐ろしく凶悪なものだ。  民話のような人々をからかうような生易しいものでは断じて違う!    ……すまない、つい感情的になったしまった。お主にとってはどうでもいいことだな。  どこまでわしは話したんだ?  ……ああ、やつらが襲ってくるところか。    1番最初にやつらを見たのは、ほかならぬわしだった。その時ちょうど物見用の櫓(ヤグラ)を外壁の上で大工仲間の連中と作っておったからな。街の誰より高いところにいた。  日光を遮る雲が一つもない快晴のなか仕事に勤しんでいると、視界の隅で何かが光った。  そちらを向くと、地平線上に太陽の日差しを反射させ何かが何百何千とそれこそ大量に押し寄せてきた。ものすごい勢いでな。
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