第零章

2/13
前へ
/220ページ
次へ
     ★ ★ ★  また、春がやって参りました。  春になると馬鹿が沸くとはよく言ったものだが、それなら僕もその中の一人に違いない。自覚はある。 「湊。顔、顔」 「すみません」  きりっ。  思わず弛みまくっていた顔を引き締めて、襟を正した。学園では常に真面目な顔をしていなければならない。学園という組織においては。でも。 「ふふっ」 「無表情で笑うんじゃない。はっきり言って不気味だ」  後頭部を小突かれてつんのめった。何だよ。自分に素直なのはいいことじゃない。  私立聖漣学園。聖なるさざ波にどんな意味が込められているのかは知らない。きっと聖を付けておけばとりあえず格好いいんじゃねっていうアレだよきっと。知ったこっちゃない。初等部からのエスカレーター式男子校で、高等部からは全寮制。その実体は同性愛者と両性愛者が跋扈する楽園。僕にとっては。長らく探し求めていたエデン、あるいはシャングリラが確かに存在していたわけですよ。  白く塗られた壁は清潔感ばっちりで、廊下には塵一つ見当たらない。これだけ広かったら掃除も大変だろうに。業者の方々お疲れ様です。  
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2440人が本棚に入れています
本棚に追加