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そっと襟を正す。襟のついでにニヤついてしまいそうなだらしない表情筋も正す。
準備万端で振り返るとタクシーが一台停車していて、その前に人が一人佇んでキョロキョロと辺りを見回している。時々声を上げていた。
王道キターあああうわあああ!
じっと目を凝らすと、明らかに鬘だと分かるボサボサの黒髪に顔の大半を占めるサイズの黒縁瓶底眼鏡。背は決して高くはなく、むしろ小さい部類だろう。近付いてみないことにはよく分からないが、遠目でみても分かる肌の白さに心躍る。制服は明らかにサイズが合っておらず、ネイビーのブレザーはダボダボ、グレーのスラックスは裾が地面を擦るくらい丈が余っている。もう王道でしかないと言いますか。
「人類はユートピアを垣間見た」
「ほよ? どうしたんだぞ?」
不思議そうな顔をしている南先輩は一先ず放置しておいて。王道転入生らしき人物はタクシーの代金を払っている様子なのだが、ちらりと見えた財布はかなり上等な品物だと見受けた。何のブランドだったか思い出せないが、著名なブランドで間違いなかった筈だ。恐らく家柄を偽って学園生活を送るのだろうが、そうした場合そういう軽はずみな行動はご法度である。何の拍子にバレるか分からないというのに。
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