第一章

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   後でさりげなく注意しておこう。あまりにも早くバレるのは芳しくない。王道的に考えて。略してOK。これ流行らせたいな。  タクシーが見えなくなるまで律儀に手を振っている転入生君。可愛い。こういう所に何様俺様生徒会長が惹かれていくのだろう。 「先輩。転入生の方、いらっしゃったみたいですよ?」 「えー。もっとみなととお話してたかったんだぞー!」 「そういうのは転入生と……いえ、何でもないです」 「変なみなとー」  よく分からない理由でぶーたれている副会長の背中を押しながら、未だキラキラした瞳で無駄に薔薇にまみれた正門を見上げている転入生の下へ向かう。早く! 早く接触せんか!  逸る気持ちを押さえつつ、正門に備え付けてあるバーコードを読み取るアレによく似たアレに例のマスターキーを翳す。アレだよアレ。だって正式名称分かんないし。  突然ゴゴゴゴ、と音を立てて開き出した馬鹿デカい門に面食らっている様子の転入生君だったが、僕と副会長が視界に入ったらしくいそいそと駆け寄って来た。 「えっと、こちらの学園の生徒さんですか? お……僕、今日から転入し……させて頂くことになっている社 絢斗(やしろ あやと)なん……ですけれども」  近付くで見て分かったが、大体副会長と同じくらいの身長である。自然と僕を見上げる形でおずおずと話し掛けてくる転入生君は、敬語に慣れていないのか一言一言確かめるように言葉を発するものだから、僕はもう鼻血が出そうなわけです。  
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