第一章

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   だいたい、学園に転入するのにわざわざ叔父さんが口出しすることはない。  しかしこの学園の実態を知っている人間はごまんといるわけで、叔父さんが理事長だと言い切れる理由にはなり得ない。そこで、社君のちょっとした所作が関係してくるわけだ。  社君は理事長室に入室する際、 「あ、えっと、もうここまでで大丈夫。ほら、悠歩も湊も授業あるだろ? 案内ありがとな!」  そう言って理事長室に入って行った社君。あなたと副会長のお陰でもう昼休みですが、とは突っ込まなかった。  まず、正門や食堂ではしゃぎ散らしたあの社君がたった三時間で慎みを覚えるなんて有り得ない。いや、社君を悪く言うつもりはない。彼はそんな王道らしい所が唯一残された絶滅危惧種的魅力なわけだし。それに彼は、素早く理事長室に逃げ込むように消えていったのである。ノックも無しに。  社君なら入室時のノックくらい忘れても不思議ではないのだが、いくら社君でも学園で一番偉い人の部屋にノックも無しにというのは……いや、強ち無いとも言い切れない。とりあえず彼の常識を信じるとすると、すなわちその行動は社君と理事長がノックを必要としない親しい間柄であることを意味する。  
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