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僕を小突いた張本人である朔夜(さくや)は、いつも通り呆れた顔をして先に行ってしまった。カツカツと、ローファーを高らかに鳴らして廊下を闊歩する朔夜は、どこか近寄り難いオーラを振り撒きながら辺りを見回している。眼鏡の端から覗く流し目が素敵です。
あ、ちょっと待ちなよ。置いてかないでよ。
「待って下さい」
学園内では珍しい僕の大きめの声を聞いて、朔夜は首だけで振り返ってみせる。
「お前が妄想に耽ってばかりで見回りに全然集中していないのが悪い。ほら、さっさと行くぞ。時間が惜しい」
「相変わらずの堅物っぷりですね。生きてて楽しいですか」
「お前と違って真面目に生きてるのがこの上なく楽しいからな。問題ない」
失礼な。僕は別に不真面目に生きているわけではない。ちょっと変わった趣味を持ち合わせているだけじゃないか。至って健全な普通の男子高校生である。
「……普通の男子高校生は男同士でイチャイチャしているのを眺めて喜んだりしない」
「情報が遅いですね。そんなことでこの学園の風紀は務まりませんよ。いいですか? 最近では腐男子なんてそこいらにゴロゴロしてます。試しにその辺を歩いている生徒を何人か拉致してみなさい。きっと一人か二人腐男子が紛れていますから」
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