第一章

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  「あー! アキばっかりずるいぞ! 俺もまだ食べたいー!」  わなわなと震える手で食べ掛けのハムサンドを受け取った黒瀬君だったが、隣でぴょんぴょん跳ねてサンドイッチをせがんでくる社君に心が揺らいでいるらしい。彼は今、社君が口をつけたサンドイッチを美味しく頂くか、むしろ社君にサンドイッチをあーんしてあげてそのまま勢いで社君を頂いてしまうか、至高のジレンマの最中である。精悍な顔を真っ赤にして、社君とサンドイッチを交互に見比べていた。  バタン。ぐっ。  階段への扉を閉めると同時に右の拳を小さく握り締めて喜びに打ち震えていると、容赦無いげんこつが降ってきた。 「無表情でのガッツポーズは本当に不気味だから止めておけ。それにしても本当にイイ趣味をお持ちだな」 「百も承知ですが何か」  これだから王道は止められない。OKですよOK。そろそろこのネタ引っ張りすぎかな。夕飯のことを思うとワクワクし過ぎて血行が良くなりそう。王道は健康をも支えるのです。  これから先起こるであろうイベントの数々を想像すると、昼からの授業なんて苦にはならない。浮わつく気持ちを抑えつつ、軽快な足取りで階段を下る。  
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