第一章

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   厨房が凄まじい回転速度を実現しているこの食堂においては大して不思議な話ではないのだが、注文して本当に間もなく、それぞれの料理が運ばれて来た。高級感溢れる器に盛り付けられた料理の数々に最初はひどく驚いたものだ。ただ、社君はやはりかなり良いご家庭からいらっしゃったからなのか、大した動揺も見せずにスペシャルなオムライスを堪能していた。 「うめー! やっぱスペシャルは違うな! 悠歩が言ってた通りだ」 「おい、あんまがっつくな。喉につっかえちまうぞ」 「意外とお母さん気質なんですね。素晴らしい」 「湊、よだれ」  料理もそうだが、目の前で繰り広げられる王道食事風景に舌鼓を打ちつつ、僕は嘗てないほど満足しているのを感じていた。もうね、これだけでご飯三杯いける。鯖の味噌煮なんかなくてもご飯だけいける。 「アキ、これ本当に美味いぞ。ほら、試しに食ってみろよ!」 「なっ、おま、あーんておま!」 「頂くべきです黒瀬君。でないと僕が横取りします」 「誰がテメェなんかにやるか!」  ぱくっ。ぐはっ。  まんまと口車に乗せられた黒瀬君は、公衆の面前でがっつり社君にあーんされてしまった。いいぞもっとやれ。  一頻り咀嚼した後、一人で真っ赤になっている黒瀬君。朔夜は呆れた顔をして頬杖をついていた。  
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