第一章

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   会長の頬を一筋の赤い線が伝う。どうやらフォークがかすったらしい。社君の絶妙なコントロールの賜物である。もし社君がミスって鼻っ面辺りに刺さっていたら、一気に大惨事だった所だ。  手で触れて初めて自分が流血していることを悟ったらしい会長は、血の付着した指先をまじまじと眺めていたが、ニヤリ、とひどく蠱惑的な笑みを浮かべて社君に歩み寄った。社君は敵意剥き出しで会長を睨み付けている。 「ただの汚い溝猫(どぶねこ)かと思ったが、貴様、中々面白いな」  ムービー用意おっけー。ぱしゃー。会長の台詞からばっちり収めました。  会長の台詞から撮影を開始して一連の流れをばっちり朔夜の携帯電話に収めさせて頂きました。ありがとう。会長と僕を除いた全員が目を見開いている中、僕は歓喜に悶えていた。もちろん表情には出さず。内心はガッツポーズだが。 「はっ、離せ!」  顎に添えられていた手を叩き落とした社君は、ブレザーの袖口で乱暴に口許を拭う。自分がされたことが信じられないのか、目を白黒させている。  さて、じっくり王道を堪能させて頂いたことだし、そろそろこの場をどうにかするか。大人しくなっていた外野の子羊達だったが、憧れの会長様のキスシーンを目の当たりにして盛大に悲鳴を上げていた。  
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