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「お腹空かないか?ルームサービスでも…」
「ううん…要らない。」
俯いてしまった亜弓の隣にゆっくりと腰掛ける。
「…どうしたの?」
優しく肩を抱き。
長い髪を上から下へ触れる。
「…別れたのよ。あの新郎と新婦。」
「え!?だってついこないだ…」
わざとらしくないように驚いてみせて、亜弓の顔を覗き込んだ。
亜弓がポツポツと話し出したのは俺が想像した通りの筋書き。
会社をクビになった晃は妻にも見限られ。
すっかり行き場をなくした。
追い討ちをかけるように週刊誌は発売され、晃を知る人は皆晃を白い目で見るようになる。
…もちろんその週刊誌は亜弓の手にも回ってきた。
その写真に酷く傷つき、吐き気まで覚えたという。
そして追いつめられた晃は、亜弓に救いを求めた。
自分をまだ好きでいてくれる。
亜弓ならば許してやり直してくれる。
そんな、淡い期待を抱きながら。
『お前しかいない』
『妻の事は愛してなかった』
『やり直して』
『愛してる』
晃の口から出る言葉は全て―――
「寒々しく聞こえたわ。」
亜弓は震える肩を自分で強く抱きしめ、唇を強く噛んだ。
次第に血が滲み出てきても亜弓はそれに気づかないみたいに。
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