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「でも違った…。」
亜弓は俺の方を向こうとはしない。
泣いているのかとも思ったが、窓にかすかにうつる亜弓の頬に涙はなかった。
「呆気なく晃はあの子に夢中になって、私は結婚式の招待状を貰ってからフラれたのよ。」
「…残酷だな…。」
俺の呟きに頷き亜弓はようやく振り返る。
その顔は微笑んでいた。
「何で…笑ってる?」
「さっき聞いたでしょう?私、面白くない女なのよ。何だかあんなに晃と自分の関係に自信持ってた自分が恥ずかしくなっちゃって。」
別に恥ずかしい事じゃない。
自信が持てたって事は…新郎を心から信じていたという証拠なんだから。
そう言おうとしてやめた。
……偽善的な慰め方だと思った。
『桜井さんて、夜の生活マグロだって本当ですか?』
『も~晃さん私のテクにメロメロで!毎晩離してくれないんですよ!』
『素直なとこが可愛いって言ってくれるんです。…前の彼女は意地っ張りで可愛いくなかったみたいで。』
先ほど新婦から浴びせられた言葉達が蘇る。
「あの子、泣きながら言ったの。晃が好きでたまらない。だけど…私が辛いなら諦めますって。」
「…なんだそれ。奪っておいて…。」
鼻で笑う俺に亜弓が首を振る。
「…私咄嗟に嘘ついたの。私にも彼氏ができた。エリートで、優しくて素敵な人だって…。笑っちゃうでしょう?変な女のプライドよ…。」
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