5558人が本棚に入れています
本棚に追加
その時の新婦の心情がよくわかるな。
どうせ嘘だと思っただろう。
そして今日、亜弓の隣にいる俺を見て…新婦は一瞬顔を歪めた。
『お仕事は何を?』
『ビルをいくつか所有しております。』
そう言った途端新婦は悔しそうに唇を噛み亜弓に先ほどの言葉を浴びせた。
自分が奪った男より遥かにキャリアが上な男を連れて結婚式に来た亜弓に、腹を立てたんだろう。
…醜い女だな。
「…別に、変なプライドだとは思わないよ。…結婚を、自分のせいで中止したなんて言われたらたまらないしな。正しい判断だった。」
「優しいのね…。」
亜弓はゆっくりとソファーに座った俺に近づいてくる。
「…もう笑うな。」
この部屋をとったのだって、どうせ相手の男なんて連れて来れるはずがないと思った新婦の嫌がらせだ。
そんな女の為に、亜弓が無理をして笑うのが許せなかった。
「…私、意地っ張りなのよ。泣きたくても泣けないの。」
自分を笑うように微笑む亜弓に胸が締め付けられる。
…意地っ張り?
こんなに素直に瞳が揺れているのに。
亜弓の瞳だけは素直だった。
寂しげに光っている瞳は、寂しい、悔しい、辛い。そう叫んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!