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「別れる時晃は言ったのよ。…お前といてもつまらない。もう愛してないって。…今更…あんな…土下座までして私にすがって……。」
俺は亜弓の頭を撫でながらただ黙って聞いていた。
亜弓の声は。
怒りというより…呆れ、悔しさ、そんなものに満ちている。
「だから…言ってやったのよ。私にはもう恋人がいる。見たでしょう?素敵な人よって…。晃の腕を振り払って、部屋に入ったの。なのに…不思議だよね。涙が止まらなかったっ…」
「亜弓……まだあの男が好き?」
ふるふる。
亜弓の首はすぐ左右に振られた。
ひどく安堵する心。
ああ…良かった。
これであの男を亜弓の中から消せる。
口の端が自然と上がってしまうのを止められなかった。
「ごめんなさい…グチだよねこんなの…」
「良いよ。…話す事で亜弓が楽になれるなら、何時間でも聞いてるから。」
優しい声で言うと、亜弓が俺の胸に顔を埋める。
その体を抱きしめ。
背中をポンポンと叩いてやった。
「優しい…朔は…。でもこれは仕事なんだよね…。」
「え?や、だから俺は出張ホストじゃ…」
「良いの!…分かってるから、朔、抱いてくれない?」
分かってないよ。
本当に出張ホストじゃないんだ。
そう言おうとしたのに。
亜弓に唇を塞がれ、俺はそれ以上を言うのを諦めた。
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