その壱「ひったくり」

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 鋭く尖った三日月が怪しい笑みを浮かべながら、黒く汚れた地上を見下ろしていた。  丑三つ時と聞くだけで、自分の周りに只ならぬ気配を感じる事がある。  そんな気配を振り切るかの如く、漆黒のアスファルトを叩くヒールの音が木霊する。    黒く長い髪をゴムで結い、サテンティアードのスカートをカジュアルに着こなす女。如何にもビジネス街で見かける  ――今時のOL  と言った雰囲気を漂わせるその女。  女の肩には、「解る人にはわかる」であろう、イタリア製の黒い上質牛革を加工したシュリンクレザーバッグが大切そうに掛けられている。  女は、ヒールを鳴らすリズムを崩す事無く、今は電車が走ることなく静まりかえった高架下を歩いていた。  すると、女の背後から一台のスクーターが、近づいて来た。
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