その壱「ひったくり」

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 静寂を押し殺し、冷静さの中にも狂気が滲み出るスクーターに乗る男……それは、まるでサバンナで獲物に狙いを定めるライオンの様だ。  顔が見えにくい深夜であっても、首から上を覆いつくすヘルメットを被った男。女の背後に近づくと、男は一気にエンジンを吹かし強引にカバンを掴んだ。  バランスを崩し倒れこむ女を尻目に、全速力でその場を去ろうとする男。  その時、女から奪い取ったカバンが大きく口を開いた途端、大蛇が獲物を喰うかの如く、男の頭を飲み込んだ。  前が見えず必死にカバンを取ろうとする男。  だが取れない!!  もがく男は、スクーターの方向感覚が定まらず、前方の電柱に頭から激突した。  外装が割れ、無残な姿になっているスクーターの横では、頭部を覆い尽くしたカバンの口からどす黒い液体が流れている。  すると女は、ピクリとも動かない男の下に跪きカバンを拾い上げた。 「アナタ ノ イノチ ハ イタダイタ……」  そう言い残し、女はカバンを再び肩に掛けると、夜の闇へと消えていった。  既に息絶えている男の傍らにあるゴミ箱から、顔を覗かせる新聞。  日付は、どうやら昨日のようだ。  『○○線高架下で、OLの女性がひったくりに会い、五十メートル引きずられ死亡』……  女性は、近辺に住んでおり、当時はサテンティアードのスカートに……  女性は、引きずられた際に所持していたカバンのベルトが首に巻きつき……  …………  END new DecolinkParser().start('diary_body')
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