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一粒の雫が、男の額から鼻筋を伝い、今、砂の地面を弾いた。
日に焼け、鍛え上げられた腕。血管が浮き上がるその腕は、地面から突き出た一本の剣を、強く握り締めていた。
細やかで美しい彫刻が施された神殿の庭先で、人の腰程の高さの台座を民衆が囲む。
男は、全身の筋肉に力を込めた。
指が軋む音が民衆を包み込み、男の歯が顔を出す。
鼻の穴が膨張し、顔を真っ赤にする男。だが、伝説の剣は涼しい顔をしながら、台座の上で眠っている。
大地を揺るがすかの、太く低い男の呻き声に期待を寄せる民衆。
だが、男は伝説の剣を抜く事が出来ぬまま力尽き、その場に倒れこみ意識を失った。
その勇姿に民衆は拍手を贈った。
彼に続き、民衆の中から候補者が現れては、ことごとく剣の前に力尽きてゆく。
中には奇声を上げ意識を失い倒れる者や腰を痛め崩れ落ちる老人、
泣き叫ぶ女性もいたが、剣を抜く事は出来なかった。
すると、民衆の中から次の候補者が現れた。
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